本人が動けなくなって、代わりに調べている方に向けて書きました。会社への連絡も、病院の予約も、書類のことも、全部が同時に降ってきて、何から手をつければいいのかわからない状態だと思います。

先にお伝えしておくと、今わからないのは、あなたの調べ方が悪いからではありません。手続きの案内はほとんどが本人向けに書かれていて、家族がどこまで代われるのかを正面から書いたものが少ないからです。だから調べても調べても、自分が動いていいのかどうかがはっきりしません。

この記事では、そこを最初に整理します。家族が代われる手続きと、本人でないとできない手続きを、まず表にしました。線が引ければ、自分が動ける範囲がわかります。動ける範囲だけを引き受ければよくなるので、抱え込みも減ります。

扱うのは手続きとお金と窓口です。声のかけ方や接し方には踏み込みません。そちらはうつの人にかける言葉に迷ったときとうつ病の人への接し方にまとめてあります。ここでは、書類と窓口と数字の話だけをします。

家族が代われることと、本人でないとできないこと

いちばん先に知りたいのはここだと思うので、最初に置きます。

家族がどこまで代われるかは、3つに分かれます

本人が動けない。代わりに手続きを進めたい
家族が動ける受診への付き添い、会社への最初の連絡、書類を届けて受け取る往復
先に確認してから動く受診の予約と診断書の受け取りは医療機関による。自立支援医療と手帳の申請は自治体の窓口に確認。就業規則は本人からの依頼が要る。障害年金の請求は本人が作成した委任状があれば代理人ができる
本人でないとできない傷病手当金の申請書の1・2ページ、退職の意思表示
一つずつの根拠は、すぐ下の表に書きました。運用が自治体や医療機関で違う項目には全国共通の答えがないので、電話で一度確認してから動いてください。
やること 家族が代われるか 確認できたこと
受診の予約 医療機関による 家族からの電話予約を受ける医療機関は多くありますが、公的な決まりはありません。初診の枠や予約のルールは医療機関ごとに違うので、電話で聞くのが確実です
受診への付き添い できる 厚生労働省「こころの耳」は、初回の受診に付き添うことが望ましいとしています。毎回付き添う必要はないとも書かれています
診断書の受け取り 医療機関による 本人の病状を書いた書類なので、本人以外に渡すかどうかは本人の意思の確認が前提になります。本人が受診時に「家族が取りに来ます」と伝えておくのが確実です
会社への最初の連絡 実務上できることが多い 法律に定めはなく、会社の運用によります。ただし病名や症状をどこまで伝えるかは慎重に決めてください
就業規則を見せてもらう 本人からの依頼が必要 就業規則を働く人に知らせておくことは会社の義務ですが、その対象は労働者本人です。家族が請求できる仕組みではありません
傷病手当金の申請書を書く 全部は書けません 4ページのうち1・2ページは被保険者本人が記入するものと、記入の手引きに明記されています。3ページは事業主、4ページは医師です
自立支援医療の申請 窓口に確認 法律上、支給認定を受けるのは本人です。書類の提出を家族が代われるかは市町村ごとの運用なので、住んでいる市区町村の窓口で確認してください
精神障害者保健福祉手帳の申請 窓口に確認 法律は「精神障害者は……申請することができる」と定めていて、申請するのは本人です。窓口での代理提出の扱いは自治体で違うので確認が要ります
障害年金の請求 委任状があればできる 日本年金機構は、代理人に委任するときは本人が作成した委任状が必要としています。本人が委任状を作れない場合の代替の取扱いもあります
退職の意思表示 できません 民法第627条第1項でいう「当事者」は、労働契約を結んでいる本人です。家族が代わりに辞めると伝えることはできません

この表の読み方

「窓口に確認」と書いた行は、逃げているのではなく、全国共通の答えが存在しない項目です。自立支援医療も手帳も、法律は申請するのが本人だと定めていますが、実際の窓口で家族が書類を出せるかどうかは自治体の運用で決まります。ここを断定して書いてある記事を見かけても、そのまま自分の市区町村に当てはまるとは限りません。電話で一度聞けば済むことなので、確認してから動いてください。

もうひとつ、表の全体を眺めて気づいてほしいことがあります。下に行くほど、本人の意思そのものが必要になっていきます。予約や付き添いは家族が代われますが、お金を請求する、権利を手放す、といった行為は本人でないとできません。制度がそう作られているのは、本人にとって不利になる決定を他人が勝手にできないようにするためです。もどかしく感じるところですが、本人を守る仕組みでもあります。

最初の1週間でやること

順番があります。この順番で進めれば、あとから慌てずに済みます。

受診と診断書

まず医療機関にかかることです。診断書がないと、会社に休職を申し出ることも、傷病手当金を請求することもできません。すべての手続きの出発点がここにあります。

家族ができるのは、通える範囲の医療機関を探すこと、予約の電話を入れること、当日付き添うことです。厚生労働省の「こころの耳」も、早めの対応が大切であることと、初回の受診には付き添うことが望ましいと書いています。そのうえで、毎回付き添う必要はないけれど、主治医の話を共有できると対応がはっきりする、とも書かれています。

診断書は、頼まないと出てきません。診察のときに、仕事を休むことを考えているので診断書をお願いしたい、と伝えてください。本人が言いにくそうであれば、付き添った家族から伝えても構いません。書かれる内容や文書料は医療機関によって違います。詳しい頼み方は診断書のもらい方にまとめています。

会社への連絡

体調が悪くて本人が電話をかけられないとき、家族が「本人が体調を崩していて出社できません」と伝えることは、多くの会社で受け入れられています。ここは法律の話ではなく、実務の話です。

このとき決めておくとよいことが一つあります。今後の連絡を、誰と誰のあいだで行うのかです。本人が直接やりとりするのか、しばらくは家族が窓口になるのか。曖昧なままだと、本人の携帯に会社から連絡が入り続けることになります。最初の連絡のときに一言決めておくだけで、そのあとの負担がかなり違います。

有給休暇と休職の関係

休むことになったとき、いきなり休職が始まるとは限りません。多くの会社では、有給休暇を使う期間、有給を使い切ったあとの欠勤の期間、そして休職の期間、という順番になります。厚生労働省のモデル就業規則も、業務外の傷病による欠勤が一定期間を超えて、なお療養が必要なときに休職とする、という書き方をしています。

どこからどこまでが有給で、いつから休職になるのかは、収入の形が変わる時期を意味します。ここを早めに把握しておくと、お金の計画が立てられます。休職そのものの進み方は休職の手続きと過ごし方に整理しました。

お金の見通しを立てる

家族が調べておくと、いちばん役に立つのがここです。本人は数字を追う余力がないことが多いので、代わりに把握しておく意味があります。

入ってくるものと出ていくもの

入ってくるもの どうなるか
給与 有給休暇を使っている日は通常の賃金が出ます。休職期間中に出るかどうかは就業規則の定めによります
傷病手当金 給与の支払いがない日について、健康保険から支給されます。おおむね給与の3分の2が目安です
出ていくもの どうなるか
健康保険料・厚生年金保険料の本人負担 休職中も被保険者であり続けるため発生します。給与から天引きできないので、会社に直接支払う形になるのが一般的です
住民税 前年の所得にもとづいて課されるので、収入が下がった年も前年分の請求が来ます
医療費 通院と薬代がかかります。精神科の通院費については負担を軽くする制度があります
文書料 診断書は休職に入るときと復職のときに必要になります。傷病手当金の申請書の医師記入欄にも費用がかかることがあります

給与が出るかどうかの考え方は休職中に給与は出るのかに、全体の金額の組み立ては休職中に受け取れるお金と、出ていくお金の全体像に書いてあります。金額の計算式もそちらにあるので、この記事では繰り返しません。

傷病手当金の申請書は、家族が全部を書けるものではありません

ここは実物を確認しました。全国健康保険協会が配っている健康保険傷病手当金支給申請書は4ページあり、記入の手引きの1ページ目に、誰が書くのかがはっきり書かれています。

  • 1ページ目と2ページ目(申請者情報、申請内容)は「被保険者ご自身がご記入ください」
  • 3ページ目(事業主証明)は「事業主に記入を依頼してください」
  • 4ページ目(療養担当者の意見書)は「担当医師に記入を依頼してください」

つまり、家族が動いて完結する書類ではありません。本人が2ページ分を埋め、会社に3ページ目を書いてもらい、医療機関に4ページ目を書いてもらって、はじめて出せる書類です。

様式そのものにも、1ページ目に「申請者はお勤めされている(いた)被保険者です」という注記があります。被保険者が亡くなっている場合に相続人が申請者になるという定めはありますが、生存している本人に代わって家族が申請者になる欄は、様式のどこにもありません。委任状を添える仕組みも様式上は用意されていません。

では家族に何ができるかというと、段取りを担うことです。申請書を印刷して用意する、会社に3ページ目の記入を依頼して受け取る、医療機関に4ページ目を預けて受け取る、揃った書類を郵送する。この往復が意外と手間なので、ここを引き受けるだけでも本人はかなり楽になります。

なお、本人が自筆できない状態のときに家族が代筆した書類がどう扱われるかは、加入している健康保険によって違います。ここは推測で動かず、協会けんぽの支部か勤め先の健康保険組合に電話で確認してください。条件そのものは傷病手当金の条件は4つに、記入の中身は傷病手当金支給申請書の書き方と記入例にまとめています。

会社とのやりとりを家族が担うとき

しばらく家族が窓口になる場合、最初に決めておくことと、確認しておくことがあります。

窓口をどちらか一方に決めておく

本人と家族の両方が会社とやりとりしていると、話が食い違います。当面はどちらが連絡を受けるのかを、会社にも伝えて共有しておいてください。あわせて、連絡の方法と頻度も決めておくと、本人の携帯に不意に電話が来る状態を避けられます。

家族が窓口を引き受けたあとで本人に戻すこともできます。最初に決めたことを変えられないわけではありません。

就業規則で見るのは2か所です

厚生労働省のモデル就業規則を基準にすると、見る場所は決まっています。ひとつは休職を定めた条で、どんなときに休職できるか、期間はどのくらいか、期間が満了したらどうなるかが書かれています。もうひとつは賃金の章にある「休暇等の賃金」の条で、休職期間中の賃金をどうするかが書かれています。モデル就業規則ではそれぞれ第9条と第43条にあたり、第43条第3項は「第9条に定める休職期間中は、原則として賃金を支給しない( か月までは 割を支給する)」という空欄つきの規定例になっています。空欄を埋めるのは各社です。

ここで一点、家族として知っておいたほうがよいことがあります。就業規則を働く人に周知することは会社の義務ですが、その相手は労働者本人です。家族が請求できる仕組みではありません。本人から会社に頼んでもらうか、本人の同意を得たうえで家族が代わりに依頼する形になります。会社が家族に見せてくれるかどうかは、会社の判断です。

社会保険料の払い方を最初に聞く

これは早い段階で聞いておくほど得をします。休職中も社会保険料の本人負担はなくなりません。給与から天引きできなくなるので、別の方法で払うことになります。毎月振り込む会社、傷病手当金が入ってから払う会社、復職後の給与からまとめて差し引く会社があります。

何も聞かないまま数か月経つと、まとまった額をあとから請求されて驚くことになります。最初の連絡のときに「休職中の社会保険料はどうやって支払えばよいですか」と一言聞いておいてください。

会社に伝える健康情報の範囲

家族が会社と話していると、つい詳しく説明してしまうことがあります。ここは意識して線を引いてください。

厚生労働省は「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」を出しています。労働安全衛生法にもとづく指針で、平成30年9月7日に公示され、令和4年3月31日に改正されています。この指針は、健康診断などを通じて会社が得た労働者の心身の状態に関する情報について、そのほとんどが個人情報の保護に関する法律にいう「要配慮個人情報」に該当する機微な情報であるとしています。

そのうえで、事業者が心身の状態の情報を取り扱えるのは、法令にもとづく場合や本人が同意している場合などに限られるとしています。さらに、会社は情報を取り扱う者の範囲や取り扱う情報の範囲を定めた取扱規程を作り、労使で共有することが必要だ、という立て方になっています。

つまり会社の側にも、本人の健康情報を無限に集めてよいわけではないという枠がかかっています。家族から話すときも、療養が必要であることと見込み期間という、診断書に書かれる範囲で足りることがほとんどです。診断名や症状の細かい経過まで伝える必要は、通常はありません。何をどこまで話すかの整理は休職を上司や人事にどう伝えるかにまとめてあります。

家族だけで相談できる公的窓口があります

この記事でいちばんお伝えしたいのがここです。本人を連れて行かなくても、家族だけで相談できる公的な窓口があります。しかも、それが法律に書かれています。

法律に「家族等からの相談に応じる」と定められています

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の第47条第1項は、次のように定めています。都道府県、保健所を設置する市または特別区は、必要に応じて、精神保健福祉相談員その他の職員または指定した医師によって、精神保健および精神障害者の福祉に関し、精神障害者およびその家族等その他の関係者からの相談に応じさせ、及びこれらの者に対する必要な情報の提供、助言その他の援助を行わせなければならない、と。

条文が「家族等」と名指ししているのが大事なところです。家族が相談することは、想定外の使い方ではなく、法律が予定している使い方です。しかも文末は「行わせなければならない」で、努力目標ではありません。

同じ条の第2項には、医療を必要とする精神障害者に対し、その状態に応じた適切な医療施設を紹介しなければならない、とも定められています。どこの病院にかかればいいのかがわからない、という段階でも相談していいということです。

さらに第47条第6項は、市町村、精神保健福祉センター、保健所が、家族等その他の関係者からの相談に応じるにあたって、互いに、また福祉事務所などの関係機関と密接な連携を図るよう努めなければならない、としています。

精神保健福祉センターと保健所の違い

どちらに行けばいいのか迷うと思うので、役割の違いだけ書いておきます。

窓口 位置づけ
保健所 地域の第一線の窓口です。まず相談してみる先として使いやすい場所にあります
精神保健福祉センター 都道府県と指定都市に置かれる専門機関です。法律は、相談および援助のうち複雑または困難なものを行うと定めています

迷ったら保健所からで構いません。込み入った事情があるときや、保健所から案内されたときに精神保健福祉センターへ、という流れが自然です。

探し方

どちらも自治体ごとに名前や置かれている場所が違うので、探し方を書いておきます。

保健所は、厚生労働省が保健所所管区域案内というページを出していて、地域や都道府県から自分の住所を管轄する保健所を探せます。自治体のサイトから探す場合は、市区町村名と「保健所」で検索するか、自治体サイト内で「保健」「健康」の分野を開くと見つかります。

精神保健福祉センターは、厚生労働省が全国の精神保健福祉センターという一覧のページを出しています。令和6年12月現在の情報として、都道府県と指定都市のセンターの住所と電話番号が並んでいます。このページは薬物乱用対策の分野の下に置かれていて見つけにくいので、検索で「全国の精神保健福祉センター 厚生労働省」と入れて探すのが早いです。都道府県名と「精神保健福祉センター」で検索しても、各センターの公式ページにたどり着けます。

電話をかけるときは、相談したい内容を一言でいいので用意しておくと話が早く進みます。本人が受診していない段階なのか、休職に入ったところなのか、それだけでも伝わると、案内される先が変わります。

本人が受診を拒むとき、会社に連絡できないとき

いちばん苦しい局面だと思います。ここでは、手続きの面からできることだけを書きます。説得の方法や医学的な判断には踏み込みません。

受診を拒んでいる段階でも、家族の相談は先に始められます。前の章で書いたとおり、精神保健福祉センターと保健所は本人が来られなくても家族の相談を受けます。本人が動けるようになったときにどこへつなぐか、という下調べを先に済ませておくことができます。これは押し付けではなく、準備です。

会社への連絡がどうしてもできないまま日が過ぎている場合は、無断欠勤の扱いになっていないかだけ確認しておくと、あとの選択肢が減らずに済みます。この場合も、詳しい事情を全部話す必要はありません。体調を崩していて、受診の予定を調整している、という程度で足ります。

そして、家族が全部を背負う必要はありません。公的な窓口はこういうときのためにあります。相談すること自体が、状況を動かす一歩になります。

長引くときに視野に入る制度

休職が長引いたときに名前が出てくる制度を並べておきます。今日調べる必要はありません。こういう名前のものがある、という程度で頭の隅に置いておいてください。

  • 自立支援医療(精神通院医療)。精神科の通院費の自己負担を軽くする制度です。申請の窓口は市区町村になります。手順は自立支援医療制度で精神科の通院費を1割にする手順にまとめました
  • 精神障害者保健福祉手帳。法律上、申請するのは本人です。持つかどうかで迷う方が多いので、障害者手帳のデメリットは本当にあるのかに判断材料を整理しました
  • 障害年金。家族が代理人として手続きするには、本人が作成した委任状が必要です。日本年金機構は、病気やけがなどで本人が委任状を作成できない場合には、委任状に代えて手帳などの書類と施設長または医療機関の長の証明もしくは診断書を用意する、という取扱いを案内しています。制度の中身は精神疾患での障害年金にあります
  • 退職を選ぶ場合の傷病手当金。条件を満たせば、退職後も引き続き受け取れることがあります。退職日の過ごし方で結論が変わる場面があるので、傷病手当金は退職後も受け取れますを先に読んでおくと安全です

どれも、名前を知って窓口に問い合わせれば使える制度です。今日その全部を理解する必要はありません。

全部を今日やらなくて大丈夫です

ここまでたくさんのことを書きましたが、今日必要なのは一つだけです。

いちばん効くのは、受診の予約を取ることです。診断書がすべての手続きの入り口にあるので、ここが動けばあとは順番に片づきます。予約が取れる状態ではないなら、保健所か精神保健福祉センターに電話をして、家族として相談したいと伝えるところからで十分です。どちらも、あなただけで行って構いません。

調べているうちに、自分が何もできていないように感じたかもしれません。けれど、この記事の表を見返してみてください。家族が代われることは、思っていたより多いはずです。予約、付き添い、書類の受け渡し、会社との連絡、窓口への相談。本人が今できないことの多くを、あなたはすでに引き受けられる位置にいます。

そして、代われない部分があることも、悪いことばかりではありません。本人が自分で決める部分が残っているということだからです。その日が来るまでの段取りを整えておくのが、いま家族にできる仕事です。急がなくて大丈夫です。

わたしたちは就労支援の現場で、ご家族が手続きを引き受けている場面に立ち会うことがあります。何もかも代われるわけではないのですが、代われないものがどれかが分かるだけで、抱え込みすぎずに済みます。全部を今日やろうとしないことが、結果としていちばん続く形だと思います。