身近な人の様子がいつもと違う。声をかけたいのに、何と言えばいいのかわからない。この記事を開いた方の多くは、言葉を探しているというより、言葉で傷つけてしまうことを怖がっているのではないかと思います。

先にお伝えしておきたいことがあります。厚生労働省のゲートキーパー養成研修用テキストには、「正しい受け答えをすれば、良い支援者というわけではありません」と書かれています。そのうえで、専門的なことがわからなくても、一緒に考える視点を大切にしてください、と続きます。完璧な一言を用意することは、資料の中でも求められていません。

この記事では、声をかける場面での一言だけを扱います。厚生労働省の資料に実際に載っている言葉づかいを紹介し、載っていない例文は作りません。避けたほうがよいとされる言葉についても、なぜそう言われているのかまで書きます。

そして、「死にたい」と言われたときの対応も入れました。相談窓口の番号も本文に書いてあります。そこだけ先に読んでもらっても構いません。

言葉に迷うのは、あなただけではありません

「間違ったことを言いたくない」から動けなくなる

厚生労働省のゲートキーパー養成研修用テキストには、悩みを抱えている人の側の心情として、悩みをどう相談したらいいかわからない、否定されたり拒絶されるのではないかと心配になる、という記述があります。そして声をかける側についても、「見て見ぬふり」の態度ではなく勇気を出して声をかけてほしい、という書き方がされています。

つまり、声をかけるほうにも勇気が要るという前提で書かれているということです。うまく言えないのは準備不足ではなく、この場面がもともとそういう場面だということになります。

支える側が消耗することも、国の計画に書かれています

自殺総合対策大綱(令和4年10月14日閣議決定)には、「悩みを抱える者を支援する家族や知人、ゲートキーパー等を含めた支援者が孤立せずに済むよう」支援を推進する、という項目があります。さらに別の箇所には、悩みを打ち明けられ相談を受けた身近な者が、対応に苦慮して自らも追い詰められていたりする可能性がある、と明記されています。

支える側が消耗することは、想定外の出来事として扱われていません。国の計画の中に、支援する側への支援という項目が置かれています。読んでいて疲れを感じるなら、それは資料の側で織り込み済みのことです。

なお、日々の距離の取り方や、支える側が長く続けるための工夫は、この記事では扱いません。ここで扱うのは、声をかける場面の一言だけです。接し方の全体と、支える側自身の相談先についてはうつ病の人への接し方にまとめました。

何を言うかより先に、心配していることを伝える

テキストに載っている声のかけ方

厚生労働省のゲートキーパー養成研修用テキストは、声かけの具体例をいくつか挙げています。原文にあるものをそのまま並べます。

  • 「困っていることはないですか?」
  • 「お辛そうに見えましたが?」
  • 「今日はどんな一日だったのですか?」
  • 「だいぶ疲れているようですが」
  • 「なんだか体調悪そうだけど大丈夫ですか?」
  • 「心配なことはありませんでしたか?」
  • 「最近、どうですか?」

同じテキストのQ&Aには、「悩んでいる人はそっとしておいてあげた方がいい」という考え方に対して「いいえ」が正解として示されています。解説には、温かい声かけは悩んでいる人に安心感を与え、悩みを相談して良いのだと思うきっかけにもなる、と書かれ、「良く眠れてる?」「疲れてない?」など、まずは声かけから始めてみませんかと続きます。

眠れているか、食べられているかを尋ねる。それだけです。気の利いた言い回しは出てきません。

「はい」か「いいえ」で終わらない聞き方

同じテキストには、聞き方についての具体的な助言もあります。「はい」「いいえ」と答えるような閉じられた質問ではなく、「最近、どうですか?」のように相手が自由に話をできるような声がけをすると話しやすい、という記述です。

「大丈夫?」は、答えが「大丈夫」で終わりやすい聞き方です。「最近どう?」「今日はどんな一日だった?」に置き換えるだけで、続きが出てくる余地が生まれます。

さらにテキストは、悩みを聞き出そうとするよりは、穏やかで温かみのある態度で「あなたのことを気にかけています/心配しています」という気持ちを伝えるとよい、と書いています。目的は、悩みの内容を引き出すことではなく、心配していることが伝わることのほうに置かれています。

話してくれなくても、それでいい

厚生労働省こころの耳のご家族にできることには、本人があまり語りたがらない様子が強いときは、無理に聞き出す必要はなく、「話したくなったら」というお気持ちを伝えるとよいと書かれています。そっと見守っているというスタンスがちょうどいいことがあります、とも続きます。

ゲートキーパー養成研修用テキストのほうにも、その時は話してくれない場合でも、のちのち心配している気持ちを感じて話してくれることもある、という記述があります。

一度で話してもらえなかったことは、失敗ではありません。声をかけた事実のほうが残ります。

避けたほうがよい言葉と、その理由

「これを言ってはいけない」という禁句のリストは、厚生労働省の資料には見当たりません。ただ、届きにくくなる言い方については理由つきで書かれています。理由のほうを覚えておくと、その場で言い換えができます。

「頑張って」

こころの耳の「ご家族にできること」には、「励まさない」という項があります。書かれている理由はこうです。すでに頑張りすぎて、こころの病になってしまった場合には、励まされることで「もうこれ以上頑張れない」とか「こんなにまわりの人が自分のために気をつかってくれるのに、何もできない自分は情けない」と感じさせてしまうことがある、というものです。

頑張りが足りないから休んでいるわけではないところに、さらに頑張りを促す言葉が届いてしまう、という説明のしかたになっています。言葉そのものが悪いという話ではなく、届き方の問題として書かれています。

同じ項には、励ますことが効果的な時期もあるので、その対応の時期については主治医によく相談してください、とも書かれています。永久に禁止された言葉ではなく、時期によって働き方が変わる言葉だという整理になっています。

「気の持ちよう」「そんなことないよ」

こころの耳は、話を聴くときの姿勢として「『そんなことはない』など否定せず、まずはご本人が一番言いたいことは何かを理解しようという姿勢が大切」と書いています。

ゲートキーパー養成研修用テキストにも、相手の話を聴くときに正しいかどうか、良いか悪いかを判断したり、批判はしないようにという記述があります。「気の持ちよう」は、相手の言っていることを一度否定してから始まる言い方です。否定から入ると、その先を話す気持ちがそがれます。

励ますつもりで「そんなことないよ」と返すのは自然な反応ですが、資料の書き方に沿うなら、否定せずに受け取るほうが先です。

「みんな大変だよ」

ゲートキーパー養成研修用テキストのQ&Aには、悩んでいる人に対して一方的に説得するのではなく、抱えている問題を一緒に考えることが大切だと書かれています。まずは話をよく聴き、気持ちを受け止め、そのうえで一緒に考えていく姿勢が大切だ、という説明です。

同じテキストのロールプレイシナリオには、悩んでいる側の役の言葉として、一方的に励まされたり、ああしたらいい、こうしたらいいと言われて、かえって落ち込んでしまうこともある、というせりふが出てきます。助言をもらいたいわけじゃなくて、ただ話を聴いてもらえたらいいなと思ったりする、とも続きます。研修用に作られたやりとりですが、厚生労働省のテキストに実際に載っている台詞です。

「みんな大変」は、比較によって相手の話を小さくする言い方になりやすいところがあります。

「早く元気になって」「気分転換に旅行でも」

こころの耳の「ご家族にできること」には、「無理に特別なことはしないでおく」という項があります。気分転換をさせよう、旅行でも連れ出そうと家族で考えることもあるかもしれないが、こころのエネルギーが消耗している状態だと普段楽しめることは楽しめず、むしろ疲労感を増してしまうことがある、という説明です。さらに、こうした気遣いに応えられない自分に嫌悪感を募らせてしまう場合もある、と書かれています。

「早く元気になって」も同じ構造を持っています。善意で差し出したものに応えられないとき、応えられない側が自分を責める材料になることがあります。

「もう仕事なんて辞めちゃえば」

こころの耳には「大きな決断は先延ばしに」という項があります。退職や離婚などを口にする場合について書かれた項で、自責的な気持ちを汲みつつも、「今はまず健康に留意することを最優先しましょう。その問題は、もう少し良くなったら一緒に考えましょう」と説明してみましょうという言い方が具体例として示されています。

本人が辞めたいと言ったときだけでなく、周りが辞めることを勧める場面でも、この考え方は使えます。決めるのを先に延ばす提案は、突き放す言葉ではありません。

迷いやすい一言 資料に書かれている理由 置き換えの方向
頑張って すでに頑張りすぎている場合、「もうこれ以上頑張れない」という受け取られ方になりうる これまで苦労してきたことをねぎらう
気の持ちよう/そんなことないよ 否定から入ると、一番言いたいことを話してもらえなくなる 否定せずに、まず受け取る
みんな大変だよ 一方的な説得は、一緒に考える姿勢と逆に働く 「一緒に考えていきましょう」
早く元気になって/旅行でも行こう 気遣いに応えられない自分を責める材料になることがある 今できることを中心に考える
仕事なんて辞めちゃえば 大きな決断は先延ばしにすることが勧められている 「その問題は、もう少し良くなったら一緒に考えましょう」

聞くときにやめておくといいこと

遮らない、すぐ解決策を出さない

こころの耳の「部下の話を聴けていますか」には、やってしまいがちな対応として次の3つが挙げられています。話を遮ってアドバイスや説得をしてしまう、話し始めても電話や来客対応で中断してしまう、自分の席で聞き始めて内容が周囲に聞こえてしまう、の3つです。

そのうえで、相手は「こんなことを相談してどう思われるだろうか」と不安を抱えながら勇気を出して相談しているかもしれない、こうした対応は次に相談しようという気持ちをそいでしまうことにもなりかねない、と書かれています。

場所を変える、通知を切る、時間を確保する。言葉づかい以前にできることが、この3つです。

相づちを打つ、うなずく

ゲートキーパー養成研修用テキストには、話に相づちをうつなど、真剣に聴いているという姿勢が相手に伝わることが大切だとあり、聴き手がうなずくと、相手の発言量は増えると言われていますという記述が続きます。

沈黙が続いたときに何か言わなければと焦る必要はありません。うなずいて待つことが、資料の中では聞く技術として扱われています。

ねぎらう言葉なら、資料に載っています

同じテキストは、気持ちを打ち明けてくれたことやこれまでの苦労が語られたときに、次のような言葉を伝えることも傾聴のアプローチでは重要だとしています。

  • 「よく話してくれました、ありがとうございます」
  • 「これまで大変な中よく頑張ってこられましたね」

「頑張って」は先に進ませる言葉ですが、「よく頑張ってこられましたね」はすでに済んだことをねぎらう言葉です。同じ語を使っていても向きが逆になります。

見守る段階の声かけとしては、「辛くなったら相談してね」「無理せず、ゆっくり休んでね」という言い方も重要だと書かれています。

「一緒に考える」は、そのまま口に出せます

平成25年に作られたゲートキーパー養成研修用テキスト(第3版)には、DVD教材の場面をそのまま収めたページがあります。「もし、『死にたい』と言われたら」という回では、聞き手の側の言葉として「どうしてそう思ったの?」「あなた本当に苦労しているのね」「でも、私に話してくれてありがとう」「一緒に考えていきましょう」が並び、まとめとして「温かい言葉をかけ、一緒に考えて!」と示されています。

演出のついた教材ですが、公的な資料に載っている実物の言い回しです。自分の言葉が出てこないときは、ここから借りて構いません。

「死にたい」と言われたとき

ここが、いちばん怖いところだと思います。先に結論を書きます。打ち消さないこと、はっきり尋ねてよいこと、ひとりで抱えないことの3つです。

打ち消さないでください

ゲートキーパー養成研修用テキストのQ&Aには、「『死にたい』と言われたら、できる限りその話に触れないようにする」という考え方に対して「いいえ」が正解として示されています。解説はこうです。

「死にたい」と言っている人は死なないというのは誤解です。「死にたい」と言われたら、その気持ちを真剣に受け止め、悩んでいることについて、良い・悪いの判断をしたり、批評をしたりはせず、まずは話を聞くことが大切です。

「そんなこと言わないで」は、その話題をそこで閉じてしまう言葉です。閉じずに聞くほうが勧められています。

TALKの原則

厚生労働省のこころの耳に掲載されているNo.3 自殺の予兆への介入というページに、TALKの原則が紹介されています。執筆は日立健康管理センタの林剛司氏、出典は平成26年度厚生労働省委託事業「ストレスチェック等を行う医師や保健師等に対する研修準備事業」と明記されています。TALKは Tell、Ask、Listen、Keep safe の頭文字です。原文はこうです。

4つの頭文字 原文
Tell あなたの様子をみていると、とても心配になるという点をはっきりと言葉に出して伝える。
Ask 自殺のことをうすうす感じているならば、はっきりとその点について尋ねる。誠実な態度で対応するなら、それを話題にしても危険ではなく、むしろ自殺予防の第一歩になる。
Listen 傾聴する。徹底的に聞き役に回り、相手の絶望的な気持ちを真剣に聴く。
Keep safe 少しでも危険を感じたならば、安全を確保する。その人を決してひとりにしないで、医療機関につなげる。

「それを話題にしても危険ではなく、むしろ自殺予防の第一歩になる」という一文が、この原則のいちばん大事なところだと思います。尋ねたら引き金を引いてしまうのではないか、という怖さに対して、資料は正面から違うと書いています。

尋ね方の例も、ゲートキーパー養成研修用テキストのロールプレイシナリオにあります。友人役の言葉として、「もしかして、逃げ出したら楽になるだろうなとか、ここからいなくなりたいって、気持ちが追い詰められたこともある?」というせりふが出てきます。

第3版のDVD教材のページには、「もし、死にたいと言われたら 具体的な計画の確認を!」という表示とともに、「死にたいほど辛いのね」「どうやって死ぬかまで考えたの?」「それほど追い込まれているのね」「一緒に考えていきましょう」「死にたくなるくらい辛い時には、早まったことしないで私に相談してほしい」という言葉が並んでいます。

危険を感じたときに確認すること

現在のゲートキーパー養成研修用テキストのQ&Aには、「死にたい」と言われたときに確認するとよい項目が挙げられています。自殺を具体的に計画しているか、手段を確保しているか、いつ頃から考えているか、どの程度持続しているか、どの程度その思いが強いか、客観的に焦燥感があったり遺書を準備したりしているか、の6つです。

すべてを聞き出さなければならないという意味ではありません。Keep safe に書かれているとおり、ひとりにしないことと、医療機関につなげることが優先されます。

ひとりで抱えないでください

同じテキストには、全ての問題を解決できる支援者はいない、ひとりのゲートキーパーができないことでも、つながることでできることがある、と書かれています。

相談できる窓口を挙げます。厚生労働省の「まもろうよ こころ」に掲載されている番号と受付時間です。

窓口 電話番号 受付時間
いのちの電話(日本いのちの電話連盟) 0570-783-556(ナビダイヤル) 午前10時から午後10時まで
いのちの電話(フリーダイヤル) 0120-783-556 毎日16時から21時まで/毎月10日は午前8時から翌日午前8時まで
よりそいホットライン(社会的包摂サポートセンター) 0120-279-338(福島県からは0120-279-226) 24時間
#いのちSOS(自殺対策支援センターライフリンク) 0120-061-338 24時間365日
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(ナビダイヤル) 曜日・時間は都道府県によって異なります

ナビダイヤルは通話料がかかります。無料でかけたい場合はフリーダイヤルのほうを選んでください。これらの窓口は、本人ではなく、支える側から相談しても構いません。こころの耳の「ご家族にできること」にも、本人が相談にハードルを感じているときや、あまり語らないときは、まずはご家族が相談してみるのも一つの方法だと書かれています。

制度を知っていると、かけられる言葉が増えます

「休んだら生活できないでしょ」と言ってしまいそうになったことがある方は、たぶん少なくありません。ここは、言葉づかいではなく知識で解ける部分です。

診断書がどう出るのか、休職中にお金がどうなるのか。それを知っているだけで、「まず診断書をもらいに行くところからだね」と言えるようになります。厚生労働省のゲートキーパー養成研修用テキストも、具体的な問題を抱えている場合はアドバイスをする前に安心や情報を与えることが重要だと書いています。

調べたことをそのまま説明する必要はありません。調べてある、という事実だけで、言葉の選択肢が増えます。

言葉が出てこなくても、それで足りています

厚生労働省のゲートキーパー養成研修用テキストは、ゲートキーパーに期待される役割を「変化に気づく」「じっくりと耳を傾ける」「支援先につなげる」「温かく見守る」の4つとしたうえで、こう書いています。

この4 つの役割のうち、どれかひとつができるだけでも、悩んでいる方にとっては大きな支えになります。

4つ全部ではありません。どれかひとつです。

同じテキストには、「話を聴くだけでは何もならない」と感じる人もいるが、傾聴は危機にある人への最大の支援です、という一文もあります。何も言えずに隣に座っていた時間を、資料の側は空振りとして扱っていません。

そして、あなた自身のことも書き添えておきます。ゲートキーパー養成研修用テキストの「心得」の最後の項目は、支援する人自身の健康管理と悩み相談も大切です、というものです。休養やストレス対処も大切で、自らが困ったときには信頼できる人に相談しましょう、と書かれています。支える人が相談することも、テキストの中に役割として書かれています。

言葉を探して疲れているなら、今日は「最近どう?」の5文字だけで十分です。うまく言えなかった日のことは、たぶん相手も覚えていません。心配していた人がそばにいたことのほうが残ります。

わたしたちは就労支援の現場で、本人だけでなくご家族から相談を受けることもあります。かける言葉を探して迷っている方ほど、すでに十分に気を配っておられます。正解の一言が見つからないままでも、気にかけていること自体は伝わっているように見えます。